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深刻化するモロッコの水不足――日本企業に広がる水インフラ市場の可能性

  • asianlustre
  • 2 日前
  • 読了時間: 8分

モロッコという国から、どのような産業を思い浮かべるでしょうか。


自動車、観光、農業、再生可能エネルギーなどを思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、今後のモロッコ経済を考えるうえで、もう一つ見逃せないテーマがあります。


それが、「水」です。


モロッコでは水資源の不足が深刻化しており、政府は飲料水の確保、農業用水、海水淡水化、水の再利用などに大規模な投資を進めています。


これはもちろん、モロッコにとって解決すべき大きな社会課題です。


一方、日本企業の視点から見ると、水処理、海水淡水化、ポンプ、膜技術、漏水対策、省エネルギーなど、日本が長年培ってきた技術を活かせる可能性のある市場でもあります。


本記事では、なぜモロッコで水不足が深刻化しているのか、同国はどのような対策を進めているのか、そして日本企業にはどのような可能性があるのかを見ていきます。


モロッコでは、どれほど水が不足しているのか


モロッコの水問題を理解するうえで、まず注目したい数字があります。


世界銀行によると、モロッコにおける一人当たりの再生可能な水資源量は、1960年には年間約2,560立方メートルでした。


ところが、2020年には約620立方メートルまで減少しています。


一般的に年間1,000立方メートルを下回ると「水ストレス」の状態にあるとされます。モロッコはすでにこの水準を大きく下回っており、2030年までには年間500立方メートルを下回る「深刻な水不足」の水準に達する可能性も指摘されています。 (World Bank)


背景には、人口増加や産業による水需要の増加に加えて、気候変動があります。

モロッコでは干ばつの頻度や深刻度、継続期間が増しており、とりわけ降雨に依存する農業への影響が大きな問題となっています。


これは単なる環境問題ではありません。


世界銀行は、水資源の減少と気候変動による農作物の収量低下によって、長期的にはモロッコのGDPが最大6.5%減少する可能性も指摘しています。 (World Bank)


つまり、水の確保はモロッコにとって、国民生活だけでなく、農業、食品産業、都市開発、工業、そして経済成長そのものに関わる課題なのです。


約1,154億ディルハム――モロッコが進める国家規模の水対策


では、モロッコ政府はこの問題にどう対応しているのでしょうか。


代表的な取り組みの一つが、2020年に始まった「飲料水供給・灌漑国家プログラム(Programme National d'Approvisionnement en Eau Potable et d'Irrigation:PNAEPI)2020–2027」です。


モロッコ経済・財務省によれば、当初計画では約1,154億モロッコ・ディルハムの投資が盛り込まれました。目的は、水源の確保と多様化、水需要への対応、水の安全保障の強化、そして気候変動への対応です。 (Finances Maroc)


米ドルに換算すると為替レートによって金額は変わりますが、100億ドルを大きく超える規模になります。


ただ、「100億ドル以上」と聞いても、それがどれほど大きいのか直感的には分かりにくいかもしれません。


重要なのは、これが単独の施設建設ではなく、国の水安全保障を支える複数年の大規模投資プログラムだということです。


世界銀行も、このプログラムを支援しながら、水分野への投資促進、水利用の効率化、そして従来とは異なる水資源の活用などを重要な柱として挙げています。 (World Bank)


そして、そこで特に注目される技術の一つが海水淡水化です。


海に囲まれたモロッコ――海水淡水化という選択肢


雨が降らないのであれば、別の水源を確保しなければなりません。


そこで重要性を増しているのが、海水から淡水をつくる海水淡水化です。


大西洋と地中海に面するモロッコにとって、海水は天候による変動を受けにくい巨大な水源となり得ます。


ただし、海水淡水化プラントを造れば問題がすべて解決するわけではありません。


海水を取り込み、前処理し、膜などを使って淡水化し、それを必要な場所へ送る。その過程では大量のエネルギーも必要になります。


つまり海水淡水化の拡大は、

膜・ろ過技術、ポンプ、水処理設備、エネルギー回収、省エネルギー、監視・制御、メンテナンス

など、さまざまな技術への需要につながります。


実際、国際協力銀行(JBIC)は2025年12月、モロッコのTAQA Moroccoとの間で、水供給やエネルギー移行分野における日本企業との協業促進を目的とする覚書を締結しました。


その対象には、海水淡水化や水輸送インフラも明記されています。 (JBIC)


日本企業には、どのような可能性があるのか


ここまで読むと、次の疑問が浮かびます。

「では、日本企業には具体的に何ができるのでしょうか?」

この問いに対して、非常に興味深い資料があります。


JICAは2026年、まさに「モロッコへの投資促進に向けた水分野における日本技術導入調査」を実施しています。


つまり、日本の水関連技術をモロッコでどのように活用できるのかが、すでに具体的に検討されているのです。 (JICA)


同調査で取り上げられている技術を見ると、日本企業にとっての可能性が「巨大な淡水化プラントを丸ごと建設する」といった大型案件だけではないことが分かります。


例えば、

  • 海水淡水化や水再利用の前処理に利用できるセラミック膜

  • RO(逆浸透)方式の淡水化設備などで使用する高効率エネルギー回収装置

  • 漏水対策・補修技術

  • 衛星データなどを利用した漏水リスクの把握

  • 水処理や再利用に関する各種膜技術

など、さまざまな日本技術が検討されています。 (JICA)


これは重要なポイントです。


モロッコの水インフラ市場を、

「大型プラントメーカーだけの市場」

と考える必要はありません。


水処理設備、部品、ポンプ、センサー、膜、AI・データ活用、省エネルギー、保守など、特定分野に強みを持つ日本企業にも参入の可能性が考えられます。


「水」は農業や食品産業ともつながっている


さらに、水インフラを水道事業だけの話として考えると、市場の全体像を見誤る可能性があります。


特にモロッコでは、農業と水の関係が重要です。


干ばつや水不足は農作物の生産に直接影響します。そして農業生産が不安定になれば、その先にある食品加工や食品流通にも影響が及びます。


日本政府もすでにこの分野に関与しています。


JICAは2025年11月、モロッコ政府との間で、ガルブ平野南東部の農業用水開発を目的とした645億7,700万円の円借款契約を締結しました。


同事業では、水資源の効率的利用と農業生産の安定化を目指して、幹線水路、パイプライン、ポンプ場、貯水施設などの整備が予定されています。 (JICA)


ここから見えてくるのは、

水 → 農業 → 食品加工 → 流通 → 消費

という一つのつながりです。


水インフラへの投資は、水道会社だけに関係するものではありません。


農業、食品、コールドチェーン、工場設備、エネルギーなど、周辺産業にも影響する可能性があります。


日本企業はどうやってモロッコ市場に入ればよいのか


技術的に需要がありそうだからといって、海外市場へ製品を持っていけばすぐに売れるわけではありません。


特に水インフラでは、政府機関、公共事業体、現地企業、EPC事業者、金融機関、国際機関など、多くのステークホルダーが関係します。


そのため、モロッコ市場への参入を検討する際には、「誰に売るのか」だけでなく、「誰と組むのか」を考えることも重要です。


日本企業にとって馴染み深い海外展開支援機関としては、JETROがあります。


しかし、水や農業などのインフラ・社会課題に関係する分野では、JICAやJBICも重要な存在です。


実際にJICAはモロッコで農業用水への大型円借款を実施しているだけでなく、日本の水技術をモロッコへ導入するための調査まで行っています。 (JICA)


JBICも、前述の通りTAQA Moroccoと日本企業との水分野における協業促進に動いています。 (JBIC)


したがって、日本企業がモロッコの水市場を検討する際には、

JETROによる市場・ビジネス支援

だけでなく、

JICAによる国際協力・ODA・民間連携

JBICによる海外プロジェクト・金融面での支援

なども含め、案件の性質に応じて複数の選択肢を調べる価値があります。


水不足は社会課題であると同時に、技術が貢献できる分野


モロッコの水不足は、決して「ビジネスチャンス」という言葉だけで片付けてよい問題ではありません。


水は人々の生活を支え、農業を支え、産業を支える基盤です。


だからこそ、そこには技術が貢献できる余地があります。


海水淡水化、水再利用、漏水対策、効率的な灌漑、省エネルギー、デジタル技術――。


日本企業が長年培ってきた技術の中には、モロッコが抱える課題と接点を持つものが少なくありません。


そして重要なのは、

「モロッコで水関連投資が増えているから製品を売ろう」

だけで終わらせないことです。


現地では何が課題なのか。

政府は何を目指しているのか。

どのようなプロジェクトが動いているのか。

誰が意思決定を行うのか。

どのような現地パートナーが必要なのか。

そして、自社の技術はその課題のどこを解決できるのか。

こうした問いから市場を理解することが、海外展開の第一歩になるのではないでしょうか。


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会期: 2026年11月17日~19日開催地: モロッコ・カサブランカ


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